引けなくなった日

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引き際が肝心だと、そう思っていた。

やり切ったのならば、きちんと終わらせる。

それがいちばん格好いい、と。

納得して綺麗に幕を引けたのなら、それ以上を求めないほうがいい。

そういう美学みたいなものを信じている。

ただ小心者なだけかもしれない。

 

とにかく、だ。

こんなBLOGを書くはずではなかったのだ。

 

 

 

25AWで当店エクスクルーシブとしてリリースした BATONER INNOCENT CASHMERE KNIT PANTS。

お求めいただいたお客さまからのリアクションはとても良く、

「想像した以上に気持ちいい」
「こればかり穿いてしまう」

等と、服屋冥利に尽きるような言葉を色々と頂戴した。

 

穿いて店に来てくれるお客さまの姿がとても良い感じに見える事がなによりも嬉しい。

立ち姿はもちろん、柔らかなミドルゲージのカシミヤニットがゆったりと揺れるドレープ感、歩き姿がなんとも美しくエレガントで、かっこいい。

このドレープの美しさは、パンツだからこそ表現できたのだと思っている。

 

鏡で見る事のできる立ち姿とは違い、自らの歩く姿を客観的に見て認識する機会は少ないはず。

だからここでしっかりとお伝えしておきたい。

 

昨年 INNOCENT CASHMERE KNIT PANTS をお買い求めいただいた皆さん、ありがとうございます。

皆さんがそのパンツを穿いて歩く姿は、とてもかっこ良く見えています。

 

 

 

 

 

 

 

 

当然の事ながら、自分自身もかなりよく穿いている。

 

量産が上がって納品されたのが9月の上旬頃だったのでさすがに少し寝かせたけど、10月に入ってすぐには穿き始めていた。

まだ寒いと感じるような気候ではなくても、秋っぽいシャツや一枚物の軽いジャケットに合わせて、気持ちよく穿く事ができた。

 

 

11月に入る頃にはようやく少し寒くなって、いよいよある日、同じニットのトップスとセットアップで着てみた。

それがしたくて作ってもらったパンツだ。

 

受注会形式で販売したのは昨年の6月。

汗をかきながらサンプルを着て、告知用の撮影をしていた。

オンタイムのちょうど良い気候の中でこのカシミヤをセットアップで着るのは、11月のその日が初めてだった。

 

 

パンツはまず先に穿いていた。

素晴らしい出来栄えだった事を確信した。

作って本当に良かった。

 

トップスはもう何年も愛用していて、その良さを知り尽くしている。

 

だから想像はできていた … つもりだった。

 

冷たい空気の中、柔らかくてあたたかいカシミヤに全身を包まれる感覚。

その多幸感を。

 

でも。

 

 

 

 

 

 

 

 

それも11月に入って間もなくの頃だったと記憶している。

 

あるお客さまが来店してくださった。

ウチの別注カシミヤをセットアップで着て。

 

少々遠方からいつもいらしてくださるお客さまで、山形の温泉に寄ってから来るのが定番のコース。

その日も近所の温泉「八百坊」でひとっ風呂浴びてから来てくれたそうで、少しリラックスした雰囲気。

 

「湯上りにカシミヤは暑いくらいだけど、とても気持ちがいい」

と言ってくださって、ものすごく嬉しかった。

 

理想的な着方をしてもらっているなー、と思った。

 

湯上りにカシミヤのセットアップを着て、馴染みの店へ。

最高じゃないか。

そのナチュラルな感じがかっこよく、素敵に見えた。

 

気取らず、気張らず、日常の中で普通に着て欲しくて作ったセットアップだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

一度きりの別注だと、そう考えていた。

 

別注品番をつくるには最低でも数十点のロットが必要になる。

仮に2回つくれば、百本近い数だ。

割と高価な、しかもニットパンツという少々ニッチなものを欲しがる人がそんなにいるとは、その時は思えなかった。

 

そもそも、初回分のロットでさえ全て売り切れるのかどうか、それすらも半信半疑だったのだ。

だけど、どうしても自分自身がそれを穿きたいという気持ちと、自分がそう思えるだけのものを市場に投げてみたいという好奇心が抑えられず、リスクを飲み込んで別注を依頼する事に決めたのだった。

 

 

結果は、3日で完売。

店頭での受注を優先するために、途中で一度オンラインからの注文をストップする事態に。

 

それでも想定外の早期受注終了となってしまい、このパンツに期待してくださっていた(けどご注文いただけなかった)お客さまにはご迷惑をおかけしてしまった。

 

 

そのような結果を踏まえたとしても、再リリースに積極的というワケでは全くなかった。

 

長い時間を掛けて準備をして、奥山メリヤス(BATONER)の皆さんにたくさんのご面倒をお掛けして、リスクを取って、そうして世に出したものがお客さまの支持を得る事ができた。

ハッキリ言ってもうじゅうぶんに満足していた。

やみくもに利益を追求するようなスケール感の店でもない。

 

穿きたかった理想のカシミヤニットパンツも手に入ったし、良い経験もできた。

それでいいじゃないか、とそう思っていたのだ。

 

そのパンツを初めて自らセットアップで着た、あの日までは。

 

 

続きます。

 

 

DIMPLE